Web制作、Web開発の歩き方

STM32入門(組み込み開発)

■第10話:ファームウェアアップデートの基礎

(最終更新日:2025.02.24)

C言語のイメージ
この記事は5分で読めます!
(絵が小さい場合はスマホを横に)

「デバッグツールを上手に使おう」

ファームウェアアップデートは、組み込み機器のソフトウェアをリモートで更新する仕組みであり、ブートローダーが重要な役割を担う。 本記事では、基本的なアップデート手法としてUARTやSDカードを利用した方法を紹介する。 また、エラー処理とロギングの実装について、エラーハンドリングの設計原則や、UARTおよびSDカードを活用したログ保存の方法を解説する。 信頼性の高い組み込みシステムを構築するための基礎を学ぶ。


1.ファームウェアアップデートの基礎

1.1 ブートローダーとファームウェア更新の仕組み

ファームウェアアップデートは、組み込み機器のソフトウェアをリモートで更新するための仕組みだ。 このプロセスには、主に以下の要素が関わる。

    ■ ブートローダー(Bootloader)
  1. ブートローダーは電源投入時に最初に実行されるプログラムであり、通常のファームウェアを起動する前に動作する。
  2. ファームウェアアップデートはブートローダーが新しいファームウェアイメージを受信し、正常に書き込まれたかを検証する。
  3. フラッシュメモリの特定の領域に書き込まれた新しいファームウェアが正しく動作することを確認し、問題がある場合は前のバージョンにロールバックするようにする
    ■ ファームウェア更新の流れ
  1. 新しいファームウェアの受信(UART, Wi-Fi, SDカード経由など)
  2. 受信データの整合性チェック(CRCやハッシュを用いた検証)
  3. フラッシュメモリへの書き込み
  4. 更新後の再起動と整合性確認
  5. 問題があればロールバック(ブートローダーによる管理)
    ■ フラッシュメモリの分割
  1. ブートローダー領域(書き換え禁止)
  2. 現在のファームウェア領域
  3. 更新用の一時領域(新しいファームウェアを受信して格納する)
  4. 設定データ領域(デバイスの状態やバージョン情報を保持)

このような流れ、領域の保持をすることで、信頼性の高いファームウェアアップデートが可能になる。 最近では、スマートフォンや車など、あらゆる機器がIoT化しており、OTA(Over the air: 無線通信)でのアップデートが増えてきている。 通信速度も速く、快適なアップデートが可能だが、悪意のある偽のソフトウェアが提供されないようセキュリティ対策が必要だ。 暗号化、署名検証といった対策が間違いなく必要になる。OTAを提供する側は、有線でのアップデートとは違い、この点に留意するようにしよう。

あらゆる機器はFWアップデートが必要

2.エラー処理とロギングの実装

2.1 エラーハンドリングの設計

エラーハンドリングを適切に設計することで、異常発生時の影響を最小限に抑えることができる。 基本的なエラー処理の戦略として、以下のポイントを考慮する。

    ■ エラー分類
  1. 致命的エラー(例: フラッシュ書き込み失敗 → システムの再起動やリカバリ)
  2. 回復可能なエラー(例: 通信エラー → 再送試行)
  3. 警告レベルのエラー(例: 一時的なセンサー値の異常 → ログ記録)
    ■ エラー処理の基本パターン
  1. リトライ: 一定回数試行し、成功しなければ別の処理を実行
  2. フォールバック: 代替手段で処理(例: ネットワークが使えない場合はSDカードを使用)
  3. フェールセーフ: 安全な状態に移行(例: モーター動作停止、システムの再起動)
    ■ エラーコード管理
  1. エラーごとに一意のIDを付与し、ログとともに記録
  2. エラー発生時のコンテキスト情報(時刻、関数名、パラメータなど)を保持
2.2 UARTやSDカードを用いたログ保存

組み込みシステムでは、発生したエラーやイベントをログとして保存することで、 デバッグやフィールドでのトラブルシューティングが容易になる。 UARTログは以下のようなコードになる。システムのデバッグ時にPCにログを送信する。

UARTで送信するログ

この方法のメリットは、リアルタイムでログを確認できることである。開発中のデバッグに有効である。 デメリットとしては、電源が消えるとログが消えるということが挙げられる。

一方、SDカードへのログ保存は以下のコードになる。 エラーや重要なイベントをSDカードに記録し、後で確認できるようにする。

UARTで送信するログ

この方法のメリットは、電源を切ってもログが残ることである。 デメリットは、書き込み寿命に気を付ける必要がある。 また、ログのフォーマットはJSONやCSV形式にすると、解析しやすい。 例えば、以下のような感じになる。

JSONのログ

これらのエラー処理とロギングを組み合わせることで、組み込みシステムの信頼性を向上させることができる。

3.まとめ

ファームウェアアップデートは、組み込み機器のソフトウェアをリモートで更新するための重要な技術であり、その中核を担うのがブートローダーになる。 本記事では、UARTやSDカードを用いた基本的なアップデート手法を解説し、フラッシュメモリの分割や更新プロセスについても説明した。 加えて、エラー処理とロギングの実装について、エラーハンドリングの設計原則や、致命的エラーと回復可能なエラーの分類、ログ保存の方法を詳しく解説した。 特に、UARTによるリアルタイムデバッグやSDカードを活用した永続的なログ管理に焦点を当て、 信頼性の高い組み込みシステムを構築するための基礎知識が重要だ。 これにより、ファームウェアアップデートの安定性向上とトラブルシューティングの効率化が計れる。 加えて、OTAを利用するときはセキュリティ対策を万全に行おう。

▼参考図書、サイト

STM32マイコン公式日本語サイト  STマイクロエレクトロニクス
 「WindowsではじめるSTM32」 インプレスR&D 山本 小鉄