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STM32入門(組み込み開発)

■第1話:STM32とは

(最終更新日:2024.12.28)

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「動くものを作りたい!」

今回から、組み込みシステム開発で使うことができるSTM32について解説する。 STM32は、STMicroelectronics社が開発しているマイクロコントローラー(MCU)シリーズで、 幅広い用途に対応した高性能な組み込み機器の開発に使用される。 言語としては、今まで解説したCやC++を用いることができる。 このセクションでは、STM32の基本的な概要や特徴について解説する。


1.STM32の概要

STM32は、Cortex-MシリーズのARMプロセッサコアをベースにしたMCUで、以下のような特徴を持っている。

■ARM Cortex-Mコアの採用
STM32はCortex-M0からCortex-M7までの幅広いラインナップを持ち、それぞれ性能や用途が異なる。 Cortex-M0/M0+は、低消費電力・低コストなアプリケーションに向いている。 Cortex-M3/M4は、汎用的な組み込み開発に適したバランスの取れた性能になる。 Cortex-M7は、高性能なリアルタイム制御や複雑な処理を必要とする用途向いている。

■豊富な周辺機能
STM32は、通信(UART, I2C, SPI, CAN, USBなど)、タイマー、ADC/DAC、GPIO、PWM、DMAなど、多彩な周辺機能を統合する。

■低消費電力モード
省電力設計が可能で、バッテリー駆動のIoTデバイスやモバイル機器に適している。

■幅広い製品ラインナップ
性能やピン数、メモリ容量が異なる数百種類以上のモデルが用意されており、ニーズに応じて最適なモデルを選択可能である。

つまり、STM32は組み込みシステムにおける広範なニーズに対応し、 幅広い商品を扱う企業においても、これを用いれば一貫した開発環境を構築することができる。 また、Nucleo開発ボードは、製品用として検討するための開発ボードとしてだけでなく、 学習用としても優秀で、電子工作を始める人でも本格的に楽しむことができる。

また、STM32が選ばれる理由としては、開発ツール、サンプルコード、セミナーなどのサポートが充実している点が挙げられる。 そして、無償で利用できる開発ツール(STM32CubeMX、STM32CubeIDE)やドキュメントも豊富である。 市場におけるシェアが高く、実績も豊富で、一般の情報が多いのも大きい。 組み込みで何か始めてみたいと思ったら、STM32の開発ボードを使えばまず間違いないだろう。

組み込み用の開発ボードを使ってみよう

2.使用用途や市場での位置づけ

STM32は、STMicroelectronicsが開発・提供している32ビットマイクロコントローラー(MCU)シリーズで、多様な用途と広い市場シェアを誇る。 以下に、既に市場で活用されているSTM32の用途、実装例を挙げる。

■家電製品
STM32は家庭内の多くの家電製品に採用されている。 例えば、洗濯機、冷蔵庫、エアコンなどの家電製品の制御システム、スマートスピーカーやスマートテレビの操作、 電子レンジやオーブンの温度制御などである。組み込みで使える用途であれば、大抵のものは対応できる。 センサーや通信機能を簡単に組み込めるのも大きい。

■産業機器
産業分野では、STM32の耐久性と多機能性が評価されている。 実際に計測機器をはじめ様々な産業機器分野で使用され、その性能が評価されている。 モーター制御やデータロガー、通信、PLCまで一通りのことができる。 そしてある程度、温度や振動などの厳しい環境下でも動作できる。

■医療機器
小型で信頼性が高いSTM32は、医療機器にも活用されている。 血糖値測定器や血圧計、ポートブル診断装置、心拍や酸素濃度センサーなど、様々である。

■その他
他にもスマートデバイスなどのIoT機器、自動車などの車載用マイクロコントローラ、 ロボティクスなどありとあらゆる分野で活躍が可能である。

このように、STMicroelectronics社は多くの産業界から信頼を得ている。 それも、STM32ボードの信頼性の高さと長期供給が可能であることが大きい。 価格も手ごろで、充実したエコシステムがあり、学習コストが低いのも大きい。 普及するのもうなずける。

様々な電化製品で使われる

3.マイコン選定のポイント

STM32には多くのシリーズがあり、それぞれ異なる特性を持つため、目的に応じた選定が重要だ。 このセクションでは、STM32シリーズの特徴やスペックを比較しながら、適切なモデルを選ぶためのポイントを解説する。

■STM32シリーズの全体像
STM32は、大きく以下のようなシリーズに分けられる。それぞれの特性に基づいて選定するのが基本だ。

シリーズ 特徴 主な用途例
STM32F 汎用モデル。性能とコストのバランスが良い 家電、産業機器、教育用途
STM32L 低消費電力モデル IoTデバイス、ウェアラブル、ポータブル機器
STM32H 高性能モデル 高速演算、AI処理、リアルタイム制御
STM32G 汎用+高性能+低消費電力のバランス型 次世代家電、産業機器、エッジデバイス
STM32WB ワイヤレス通信内蔵モデル IoTデバイス、スマートホーム製品
STM32MP1 Cortex-AとCortex-Mを統合(Linux対応) 高度なアプリケーション、AI、GUIデバイス

■用途に合わせたシリーズ選定
汎用性を重視したSTM32FシリーズはエントリーレベルのSTM32F1から高性能なSTM32F4を用意している。 低消費電力を重視するなら、STM32Lシリーズでバッテリー駆動デバイスや省エネ設計に向いている。 高性能なモデルが良いなら、STM32Hシリーズで高速な演算や複雑な処理を得意とする。 無線通信が必要なら、BluetoothやZigBeeを内蔵しているSTM32WBが良い。 LinuxやGUIに対応しているものは、STM32MP1でCPUにCortex-Aを採用している。

■必要なペリフェラル(周辺機能)の確認
各プロジェクトで必要なペリフェラルを確認し、それに対応したモデルを選択することが重要。 主なペリフェラルには以下のようなものがある。

ペリフェラル 用途例
GPIO LEDやスイッチ制御
UART/I2C/SPI 通信プロトコル(センサー、外部機器)
ADC/DAC センサー値の取得、アナログ信号の出力
PWM/タイマー モーター制御、タイミング制御
USB/Ethernet 外部デバイス接続、ネットワーク通信
DMA 高速なデータ転送

その他の選定のポイントとしては、長期供給可能かということもある。 STM32のマイコン選定では、用途や必要なペリフェラル、性能、コストを考慮し、最適なシリーズとモデルを選ぶことが重要だ。

4.開発環境の準備

STM32での開発を始めるには、適切な統合開発環境(IDE: Integrated Development Environment)を選び、 必要なツールをセットアップすることが重要になる。 以下では、主要な開発環境(STM32CubeIDE、IAR Embedded Workbench、Keilなど)の特徴と準備手順を詳しく解説する。

■主な開発環境の比較
STM32に対応する主要な開発環境を比較し、それぞれの特徴を示す。

開発環境名 特徴 適用例 料金
STM32CubeIDE ST公式の無料IDE。GUIでの設定とコード編集が統合。CubeMXと統合されており便利。 初学者、中小規模の開発 無料
IAR Embedded Workbench 高性能で最適化されたコンパイラを持つ商用IDE。組み込み分野で広く使用されている。 プロ向け、商用プロジェクト 有償(評価版あり)
Keil uVision ARM開発向けの老舗ツール。リアルタイムOSやミドルウェアとの連携が強い。 産業機器やリアルタイム制御 有償(評価版あり)
PlatformIO クロスプラットフォームの開発環境。STM32も対応。Visual Studio Codeと連携可能。 マルチプラットフォーム開発 無料/有償プラン
Eclipse + GCCツールチェーン フリーな環境を構築可能。柔軟性が高いがセットアップに時間がかかる。 コスト重視の開発 無料

Nucleoなどの評価用、学習用として使う場合は無料のSTM32CubeIDE、PlatformIOを使うのが良いと思う。 プログラミングに慣れている人であれば、VSCodeから直接デバッグできるPlatformIOが良いと思う。

一方、商用として本格的に使うのであれば、IAR Embedded Workbenchが良い。 最適化されたコンパイラによって、コードサイズの最小化や実行速度の最適化の評価が最も高い。 限られたリソースで高性能なシステムを構築したいのであれば、なおさらである。 また、商用ライセンスにより長期サポートが保証されており、信頼性も保証されている。 デバッグの機能も豊富である。各種セミナー等のサポートも多い。また、自動車や医療機器などの安全規格の認証も受けている。

5.まとめ

STM32は、STMicroelectronicsが提供するARM Cortex-Mコアを搭載した32ビットマイコンシリーズで、 家電、産業機器、IoT、自動車、医療など多様な分野で使用される。 STM32シリーズは、汎用性の高いSTM32F、低消費電力のSTM32L、高性能のSTM32Hなど用途に応じたモデルを選択可能だ。 開発環境としては無料のSTM32CubeIDEが初心者や中小規模開発に適し、 高度な最適化が必要な商用プロジェクトにはIAR Embedded WorkbenchやKeilが推奨される。 用途や規模に応じたボード、開発環境の選定が成功の鍵になる。

▼参考図書、サイト

STM32マイコン公式日本語サイト  STマイクロエレクトロニクス